| グループホーム中四国実践報告大会に参加して
管理者 相原あや子
11月10日、愛媛県グループホーム連絡協議会主催で上記の会があり参加しました。県内外から300名近くの参加者があり、グループホームが急増している中、感心の高さを示しています。8事例の実践報告の後、林崎光弘先生の講演がありました。林崎先生は社会福祉法人函館光智会あいの里総合施設長をされています。又、NPO法人全国痴呆性高齢者グループホーム協会副代表理事も兼任されています。本会の林崎先生の講演のレジュメに、グル−プホームケアの質の向上への示唆が与えられていますので、その一部を掲載させていただきます。 |
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痴呆性グループホームの基本理念 痴呆性高齢者が安定した日常生活を営むためには、個人の尊厳を保ち、価値ある人生を送ること、さらには家族が安心して生活できることが必要である。また、痴呆性高齢者の問題に関しては、介護者として、あるいは被介護者として、誰もが当事者になる可能性があることを理解する必要がある。そういった意味においても、痴呆性高齢者は社会全体で支えなければならない存在なのである。しかし現在においても、痴呆性高齢者に対する理解は国民全体に浸透しているとは言えない状況にある。
また、痴呆性高齢者は、施設において他の障害を併せ持つ高齢者と同様に、集団の一員として処遇されているのが多くの場合の現状である。このような処遇により、痴呆性高齢者に対してさまざまな制約が加えられ、それが原因と思われるストレスの多い状況に置かれることになる。このことが結果的に痴呆症状を進行させることになっている。これは、既存の大規模施設における介護方法では処遇が困難な場合があることを意味しているのである。
海外においては、福祉先進国を中心に痴呆性高齢者グループホームの取り組みが普及し、その効果も検証されてきた。日本においても海外の動きを受け、先進的な取り組みとして、痴呆性高齢者グループホームが活動をはじめ、1997年に運営費が制度化された。この制度化に際し、グループホームの定義が「グループホームとは、8人程度の痴呆高齢者を入居させ、小規模な生活の場において、食事の支度、掃除、洗濯等を含め、1日中共同して家庭生活を行うことを目的としたサービス提供の場」と呈示された。
痴呆性高齢者グループホームでは、痴呆性高齢者にとって生活しやすい環境を整え、少人数の中で「なじみの関係」を形成することによって、生活上のつまずきや行動障害を軽減し、心身の状態を穏やかに保つことができるようになる。この「なじみの関係」を形成するたものスタッフとの関係が重要となり、ケアされる側、ケアする側という「垂直の関係」から一緒に暮らすという「水平の関係」へ変化させる必要がある(表1)。グループホームの家庭的な環境と雰囲気を提供し、心理的な安定を維持するために以下のような対応が考えられる。
表1 新しいケア(垂直の関係から水平の関係へ) |
| 垂直の関係 |
水平の関係 |
点のケア
その時点を支える
一方的に世話する
指示・指導する
集団的処遇
管理・抑制
施設のリズム
個人が見えない
誘導的
物理的閉じ込め |
線のケア
連続的に支える
共に生活する
寄り添って助言する
個別処遇
自由
本人のリズム
ミスの発生過程が見える
自主的
開放感の発生 |
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(1)なじみの集団と安心の場の提供、(2)できる限り制約のない雰囲気づくり、(3)一人ひとりが大切にされる雰囲気づくりである。いわば、痴呆性高齢者グループのケアは、痴呆性高齢者が混乱しないで普通の生活を送ることができるようにすることを最優先とする。痴呆性高齢者が「心身の痛みを緩和し」「心を癒し」「生活に満足できる」ように導く。そして相互に存在価値を認め合えるように図るのがグループホームの原点であると思われる。
また、痴呆性高齢者グループホームで共に暮らすスタッフは、今までとは違うという発想の転換を図らねばならない。痴呆性高齢者と共に生活を営む「共同生活者」であるという考えであり、生活の主催者は老人であるという理解が最小限必要なのである。
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| 以上が林崎先生の講演レジュメの一部です。その中の表1新しいケア(垂直の関係から水平の関係へ)を引用し、当グループホームの日々の暮らしの中での実践を述べてみたいと思います。 |
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| 点のケアというのは、排泄介助、食事介助、入浴介助、水分補給というように機能別に組織化したシステムのケアの方法ですが、グループホームは擬家族、擬家庭です。家の暮らしは24時間連続しています。9人の入居者の連続した生活を支えるということは連続したケアでなければ支援することは出来ません。例えば、排泄に援助の必要な入居者の排泄の援助を行ってそれで援助が途切れるのではなく、排泄した後のその方の過ごし方に視点を向け、必要な方には休息や活動の支援を行います。このように、24時間入居者の内発的動機を尊重しながら連続的なケアをグループホームでは行っています。 |
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| 大げさに言えば、入居者とスタッフは共に生活する同居人です。入居者にそう感じていただくようなスタッフの服装は家庭にいるような雰囲気のものを着用し、出勤退出も極力目立たないようにしています。もちろん食事も一緒に作り同じテーブルで同じものを一緒にいただきます。ただ、根底には綿密に打ち合わせたスタッフ間の共通のケア計画があります。食事時テーブルに座るスタッフの位置、Aスタッフは誰と誰を見守り援助するか、Bスタッフは誰かと、くつろいで食事をする雰囲気を保ちながらも根底ではスタッフは五感をフル回転させています。 |
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| 痴呆性高齢者は記憶障害、認知障害(失語、失行、失認、実行機能の障害)のため、生活のつまずきを起こします。実行機能障害のため「私、どうしたらいい?」と自分の行動の計画が立てられず不安感を表出する方がおられます。「洗濯物が乾いたんだけど今からたたむから一緒にしませんか」との声かけをします。又、夏でも服を何枚も重ね着している方に対しては、「汗をかいているから少し着過ぎかもしれませんね」と更衣を促します。スタッフは入居者の生活のつまずきを受容しての対応ですから、指示的態度はとりません。 |
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| 家庭に家風はありますが、規則はありません。部屋で過ごすのが好きな人、皆と一緒の方が楽しくいられる人様々です。又、朝寝、昼寝をする人、日中は活動的に動く人、それぞれの過ごし方に合わせてスタッフは対応していきます。やりたい事、得意な事も入居者各自違います。テレビを見るのが好きな人、後かたづけの上手な人、それぞれ個人のやりたい事、得意な事を大切にした支援を行います。又、逆にやりたくない気持ちを大切にすることも、大切な支援の一つです。 |
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| Nさんは活動的な人で、家事全般を積極的に行われます。山のようにある洗濯物を目にすると、直ぐ干しに行こうとされます。スタッフがその時他の事で手一杯で一緒に干すことが出来なかったりすると、Nさんは干し終えて疲れた為か腹立たしく「KさんのシャツもYさんの昼寝着も干しといたよ!」と大声で言い、他の入居者の困惑も招きます。みなで後から干すことが待てない自分が沢山干すと疲れて腹を立てる。これを解決するため、さほど負担にならないし名前の目立たないタオル類をNさんに干していただこうとカゴを別にし、衣類の入った洗濯カゴはNさんの目の届かない場所に置くことにしました。そうし始めた当初、Nさんは洗濯物を干しスタッフから「ありがとう」の声をかけられ満足そうな顔が見られるようになりましたが、最近干し終わった後、腹立たしい態度が又見られるようになりました。1人で干すことが(自分だけやっている)という気持ちを増幅させるのではないだろうかと考察し、近々開催するケアカンファレンスで再検討を行います。 |
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| もちろん出入り口は夜間以外カギはかかっていません。朝、門の新聞受けまで新聞を取りに行く、畑に野菜の手入れをしに行く、庭を散歩する、庭木の水やりをする等戸外に出る機会は多くあります。痴呆による行動障害やADL低下のため介助の必要な人は、スタッフと共に戸外に出ます。日々の買い物も入居者の方の楽しみの一つです。当グループホームは庭が比較的広いため、ゆったりとした生活空間の中で暮らすことがででます。
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以上、グループホームは水平の関係という視点から当グループホームのケアを述べましたが、各項目を検証してみますと課題や改善点は山積です。林崎先生が示される基本理念をスタッフ間で共有し、より質の高いケアの提供ができるよう研讚していきたいと思います。 |