1年が経ちました

管理者 相原あや子

 
 昨年2月に開設して1年が過ぎました。私にとりましてはあっという間という印象ですが、入居者の方々や他のスタッフはどのように感じているのでしょうか。
 以前にもこの頃に書きましたが、ルンビニーの周囲は三方田畑に囲まれています。春には耕耘機で耕した田んぼに水が引かれ、稲の苗がかわいく整列し、初夏にはその田んぼが緑一色に埋まり、やがて花が咲き、秋には黄金色の絨毯に変身です。お米が食べごろに実った頃には、スズメ、ハトの集団が入れ替わり立ち替わり食事に来ます。特にスズメの大集団は見事で、何百羽でしょうか。それが一斉にパッと飛び立つ様が台所の窓から見えると、「わあ、すごいなあ」と誰彼ともなく思わず声が出ます。寒空の中、田んぼの虫でもつつきにくるのでしょうか、その光景は今も続いています。
 庭の周囲のフェンス沿いに咲く山茶花の赤い花と色とりどりのパンジーが、やがて来る春の訪れを予感させてくれます。四季の移ろいを五感で感じながら過ごしたこの1年。これからの1年も平々凡々以上を望みません。みんなが元気で仲良く暮らせますよう。
 
ご家族から寄せられた手記
 
  入居者Sさんの娘Kさんから手記(「お手々つないで」)が寄せられました。Sさんは80歳の女性です。関西に生まれ京都で育ち、大学を卒業後、高校教師となりました。同じ高校教師である方と結婚され、一時期は専業主婦でしたが、復職され国語(古典)の先生を長く勤められました。退職後はご主人と海外旅行など充実した生活をされていました。ご主人が病気で入院され、Sさんの献身的な看病の甲斐もなく亡くなられ、以後一人暮らしとなります。Sさんは約6年前から物忘れが多くなり、京都での一人暮らしが困難な状態となり、4年前Kさんが住む松山に引き取られました。Kさんは介護保険を有効に利用され、ほぼ毎日のデイケア利用とショートステイ利用でお母さんのお世話をされていました。ルンビニーが開設することをケアマネージャーから聞かれたKさんは早速見学に来られ、お母さんの入居を申し込まれました。入居を選択されるにいたるまでには、娘としての色々な想いがおありになったようにお見受けしました。
 入居されてからのSさんは元々の性格から日常は穏やかに過ごされます。時々他人との口論や物音がが引き金になり、不穏や混乱を招くことがあります。痴呆はかなり進行しており、食事を自分で食べられる以外の日常生活は、見守りや介助が必要です。娘のKさんは入居当初から1日に1回はルンビニーに来られ、お母さんとひとときを過ごされています。Sさんも娘さんが来られると笑顔になり、いい気候の頃は仲良く散歩に出かけられます。SさんにとってKさんは娘さんではなくお姉さんとして存在しているようです。
 毎日来られるKさんは、週1回ボランティアとして関わって下さっています。その時はもちろん、毎日お母さんに会うために来られる時も、入居者9人のことをよく理解してくださっていますので、夕方落ち着かなくなる方に対して歌に誘ったりしてくださったりと、お母さん以外の入居者にもタイミングよく気配りしてくださいます。Kさんは最近2級ヘルバーの資格を取られました。目的は、お母さんとより良く関わりたい、ルンビニーでのボランティアに活かせたらとのこと。ヘルパー資格取得のため、Kさんは介護老人福祉施設に実習に行かれました。そこで、大規模施設で行われている機能別の介護と、グループホームで行われている1人1人の生活を重視した介護の違いを目の当たりにされ、お母さんがグループホームに入居するという選択は間違っていなかったと確信されたそうです。傍目にもまるで姉妹のようなSさんとKさん、お散歩できる春が待ち遠しいですね。
 

お手々つないで

 「お母さん、散歩に行きますよ。」「ハイ、行きましょ、行きましょ。」 母はニコニコ、イソイソとついて来ます。
 ルンビニーの門を出て、右に行こうか、左に行こうか。左に行けば、ケーキ屋さんの前を通り、川沿いをグルッと一周。みかんの花が咲き、青い実になり、黄金色に実る。コスモスの花が揺れて、白い鷺が飛び、汚い川の中にも魚の影があり、カイツブリの夫婦がプクンと顔を出す。四季の移り変わりを肌に感じながら、二人でつないだ手を握り、声を合わせて歌って歩きます。「お手々つないで、野道を行けば・・・」 「夕焼け小焼けで日が暮れて・・・」 母の十八番は「上を向いて歩こう」。もうほとんど歌詞は忘れてしまったが、一緒に歌うと美しい声で歌ってくれる。毎日のように歩いていると、犬の散歩をしている人や、ウォーキングをしている人と顔なじみになり会釈を交わす。母も丁寧に頭を下げている。
 ルンビニーに入居する前からずっと続けている散歩は、母の徘徊を予防し、夜よく寝られるようにと始めた苦肉の策だったが、効果はともかく、母と私がつないだ手を通して、肌の温もりを感じ、二人でいる時を大切に過ごすという点では、なくてはならない時間のようである。寒い間は、その散歩もお休みしているが、室内の長いソファに、電線の雀のように皆でギッシリ座って、歌いましょ、歌いましょう。スタッフ手作りの歌詞カードを繰りながら、次から次から声を合わせ、楽しく歌います。そのうち、台所からは、夕食の暖かでおいしそうな匂いが漂ってきて、笑い声の絶えない、とても和やかな雰囲気です。「母さんお肩をたたきましょ・・・」「春よ来い、早く来い・・・」。
 これから先も、母が安心して、心穏やかに1日1日大切に過ごして行けるよう、人間味溢れる個性豊かな優しいスタッフ達と、心を合わせて、母を支えて行きたいと思っています。
 「母さん、大丈夫よ。私や、スタッフの皆さんや、それにお仲間も、側に皆いるからね。暖かくなったら、また一緒に歩きましょうね。」

 
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