最近「軽度認知機能障害(以下MCI(Mild Cognitive Impairment))」という言葉を耳にする機会が多くなりました。認知症状に対する治療についても、早期診断、早期治療が重要視されるようになり、また、一般の人々の認知症に関する意識や認識の高まりもあって、MCIに対する意識の高まりに繋がっていると思われます。
MCIの概念
MCIは1996年に提唱されたPetersenらの基準に従うことが多いのですが、これはアルツハイマー型認知症を発症する可能性が高い群を早期に検出しようという、記憶障害に重点をおいた基準です。
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
- 本人または家族によるもの忘れの訴えがある
- 全般的な認知機能は正常範囲である
- 日常生活動作は自立している
- 認知症ではない
一方、アルツハイマー型認知症の定義は「記憶障害と失語、失行、失認および遂行機能障害のいずれかの複数の認知機能障害のために社会的または職業上の障害が起こり、以前の機能水準からの低下が明らかに認められるもの」、とされています。注意すべき点は、MCIは記憶障害はあっても、全般的な認知機能は正常範囲であるのに対し、認知症は記憶障害に加え、他の認知機能障害も認められるという点で、MCIは認知症とは異なるということです。
MCIは表面的には軽度であっても、疾患そのものは進行性で、将来認知症へと重症化する可能性のある前段階と考えられ、1年たつと10〜15%がアルツハイマー型認知症に進行するといわれています。
MCIの診断とその対応
MCIには統一した記憶障害査定のためのツールはなく、各研究で用いられている検査方法やカットオフポイントが異なっており、個々が選択した尺度で診断しているのが実情です。
多くは臨床的に経過を観察することでアルツハイマー型認知症の早期発見に結びつけているのが現状です。一般的には、HDS-R(改訂長谷川式知能評価スケール)やMMSE(Mini-Mental State Examination)などのスクリーニング検査があります。時計の文字盤を患者に描かせるクロックドゥローイングなども有用であると言われています。
画像診断として、MRIで得られた画像から関心領域の脳萎縮を測定し、進行度や予後を予測します。
MCI〜今後への期待
MCIに対する早期診断、早期治療が重要視されることで、MCIに対する意識も高まってきました。また、MRIなどの画像診断の進歩から、将来アルツハイマー型認知症に移行すると考えられるMCIについても次第に研究成果が蓄積されています。MCIが将来アルツハイマー型認知症に移行するか否か、その移行が早いか遅いかを判定することは、患者にとって、さらに家族など介護者にとっても重要な問題である。
最近ではpetersenが提唱した基準が拡大され、アルツハイマー型認知症以外の認知症に進行する可能性の高い群や、認知症へは進行しない脳基質疾患や精神疾患などの他の群も軽度認知障害として、より細分化しようという試みがあります。これらについては、機会を改めて紹介したいと思います。 |