MCIはMild Cognitive I mpairmentの略で、日本語の名称として「軽度認知障害」と訳されています。MCIは、記憶障害を含む認知機能の軽度の低下を本人や周囲の人が気付いていること、認知機能低下を客観的に評価できること、日常生活や社会生活は支障なく過ごせていること、などの条件を満たす「状態」のことを指します。多くの場合、この段階を経て「認知症」になるので、「認知症予備軍」とか「境界型」などと呼ばれています。
1995年、米・メイヨークリニックのロナルド・ピーターセン博士によるMCIの定義は以下のごとくなっています。
- 本人または家族から記憶障害の訴えがある。
- 年齢や教育レベルだけで説明できない記憶障害がある。
- 日常生活は普通にできる。
- 全般的な認知機能は正常
- 認知症ではない
この定義はもの忘れなどの記憶障害がみられるもので、主としてアルツハイマー型認知症に移行するものでありますが、最近ではMCIに「健忘型」と「非健忘型」の考えが導入されています。すなわち、もの忘れ以外の認知障害の症状があってもMCIと考えられるようになりました。以下、代表的な症状です。
- 複雑な注意力の障害
- 家事や仕事にかかる時間が長くなったり、間違いが多くなる。「ながら」仕事が難しくなり、テレビを見ながら料理することが難しくなる…など。
- 実行機能の障害
- 料理や手順が何段階も必要な仕事をこなすのに努力が必要になる。
- 学習と記憶の障害
- 手帳やメモ、カレンダーなどがないと困るようになる。
- 言葉の障害
- 「あれ」「それ」と言うことが多くなる。人の名前も出てこない。
- 知覚と運動の障害
- 日曜大工、縫い物、編み物などの空間的な作業が困難になる。
- 社会的認知の障害
- 人の表情を読んだりすることが難しくなり、活気が減ったり、落ち着きがなくなる。
以上のごとく非健忘型には、前頭側頭型やレビー小体型認知症などに移行するものもあると言われています。
MCIは必ずしも認知症になるわけではありません。一般の高齢者が1年後に認知症になる確率は1.0〜1.5%程度に対して、MCIでは、10〜15%と言われています。5年後には、約5割の人が認知症になり、4割の人はMCIの状態を継続し、1割の人はMCIが治癒していると言われています。
MCIの段階で異常に気づき、運動、食事など生活習慣の改善を図って症状の改善を目指したいものです。MCIを早期発見して対応することが、認知症予防の重要課題だと考えます。
筑波大学付属病院では、軽度認知障害(MCI)の人を対象にした「認知力アップデイケア」を開設しています。筋力トレーニング、ダンス、絵画などのプログラムで、脳の予備能力を使うことによって、普段使っていない脳細胞を活性化させることができると言います。MCIの人について認知力アップデイケアのプログラムに参加した人は、参加しない人に比し、一年半追求し、MMSEが高得点であったと報告されています。
(トライングル、Meiji Seika ファルマ株式会社、Vol.3 2015) |