【第3回】
「だいじょーびぃ。」
介護スタッフ 福本尚子
「Kさん、しんどくないですか?」
「だいじょーびぃ。」と明るい声。
とても暖かい笑顔が素敵なKさん。ルンビニーが開設して間もない平成14年2月2日に入居されました。Kさんは92歳の女性で、記憶障害や見当識障害といった痴呆症状はあるものの、身の回りのことは自分でだいたいされるしっかりとした方でした。
日なたぼっこが好きなKさん。暖かい日差しが差し込むと、「あそこぬくそうやな。」と日差しとともに場所を変えて「あー、ぬくうて気持ちええわい。」と幸せそうな笑顔が強く心に残っています。
そんなKさんにいろんなことを教えていただきました。漁港である松山市の三津浜で育ったKさんは魚さばきが上手で、「この魚はどうやって食べたらええの?」とスタッフが聞くと、「これは内臓を取って・・・」と慣れた手つきでさばいてくれました。そして、物知りでユーモアのあるKさん。食事の準備中に味見をお願いすると、「味は大和のつるし柿!」と言いました。みんな何のことやら解らず、キョトンとしていると、「味見せんでもおいしいのはわかっとる。」とKさんの解説によりみんな納得。また、結婚観について話していると、「みかん、きんかん、酒の燗、親のせっかん、子は聞かん、貧乏のもとでは働かん!」 Kさんのお陰で随分物知りになりました。
あと、こんなこともありました。Kさんの入浴中、スタッフが忘れ物を取りに浴室を離れる際、浴槽につかっているKさんに「じっとつかっといて、動かんといてね。」と声をかかけると、「泳ぎよろうわい。」とKさん。このユーモアはKさんならではで、今思い出してもつい吹き出しそうです。また、食後にある入居者さんが、「美味かった」と言うのを聞き、「うしまけた」(馬勝った⇔牛負けた)と返し皆を笑わせたりしていました。
そんな明るいKさんでしたが、今年に入り、倦怠感が顕著に現れてきました。もともと少食でしたが、食事量も減り、体重も減少していきました。食事量が少ない時はKさんの大好きなおせんべいを出したり、白ごはんにのりを巻き、手に持って食べやすいように手渡したりと工夫していましたが、腎機能も低下していたため、少し歩いたり動いたりすると息切れがし、とても辛そうで、「だいじょーびぃ。」の言葉の代わりに「しんどいわい。」という言葉が聞かれるようになりました。こたつや居室で臥床する事も多くなり、以前のように台所で調理したり、掃除をしたりと家事に参加することもほとんどなくなりました。
3月13日体調が悪化し、2日後には大勢の家族の方に見守られながら静かに息を引き取られました。「おばさんは苦労したけんな。孫もみんな、面倒みたんよ。」とよく言っていましたが、息子さんや娘さん、お孫さんもよくルンビニーに会いに来られており、本当に家族の方に大切にされているんだなあと感じていました。だからこそKさんは家族の方に見守られながら最期を迎えることができたのだと思います。
3月17日、Kさんのお葬式に参列しました。家族の方の思いを感じ、そしてもう二度と会えない悲しさから、涙がとめどなく溢れ、涙で言葉にならず、逆に家族の方に励まされてしまいました。Kさんを慕っていたスタッフは家族の方にお願いして、思い出の品をもらい大切に使っています。その品(歯磨きコップや器)を見ると、笑顔で「だいじょ−びぃ。」と言うKさんを思い出します。
 「だいじょーびぃ。」いつも心配して声をかけると、明るい声で返ってくる・・・。その「だいじょーびぃ。」の言葉の中には『心配をかけてはいけない』というKさんの思いと、『全てを受け入れて前へ進みなさい、大丈夫だから。』という優しさと励ましが込められていたような気がします。だってKさんの「だいじょーびぃ。」を聞くと、嫌なことも忘れ明るい気持ちになれたのだから。
今まで歩んだ長い93年という人生、その中で辛いことや楽しいことを経験したからこそ、全てを受け入れる強さがあふれいる最高の笑顔。そして明るく、ユーモアのあるところ。家族を大切にするところ。私もこんなおばあちゃんになりたいと思う。Kさんと出会えて本当に良かった。ありがとう。天国から時々私たちのことも見ていてくださいね。
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